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巻 頭 言


笑っていいともA

 7月21日、左ヒザをひねったその後のことである。ニ・デーグルへ下ったのに電車が不通で、線路をシャレ・ドゥ・ラールへ歩き、山道に入ってベルヴューへと下った。線路を歩いているとき、雨が降り始めた。雨具の上だけを着て歩いていた。ズボンが少しずつぬれてきた。ポッケに入っているユーロ紙幣が気になり、ズボンのポッケから雨具のポッケへ移した。

 ロープウェイの乗り場に着いて、雨具を脱ぎ、ストックを縮めるなど身の回りの整理を始めた。レストランがあったのでビールを飲もうかなと思い、ユーロを取り出すべく、雨具のポッケに手を入れた。ない。200ユーロ、日本円にして34,000円分くらいあったお金がないのである。同行の宮下裕史さんに、「ポッケに入れたつもりが、道端に落っことしてしまったんですかね」とグチりながら、ザックの上に置いていたウエストバックを腰にまわした。何気なくウエストバックのファスナーを開くと、ユーロはそこにキチンと収まっているではないか。ロープウェイの駅に到着したとき、本人は無意識のうちに、ユーロをウエストバックに移していたのだ。しかし、本人はまったく記憶にないことなのだ。

 時間が飛んで7月29日の夜、幌尻山荘でのこと。夜、トイレに行った。便器にヘッドランプを落としてはいけないと思って、おでこからはずして、棚に置いた。用を済ましてシュラフに戻る。しばらくしてヘッドランプを忘れてきたような気がしてきた。頭付近を捜してもヘッドランプはない。棚から取り上げた記憶がないので、そこに忘れたのだと思って、再びトイレを訪れた。棚にはなにもなかった。後から行った人が持っていっちゃったんだろうと考えて、しょんぼんとシュラフに戻る。朝になって、隣の佐藤マキ子さんにそのことを伝えた。

 「トイレの棚にヘッドランプを忘れたんですが、心当たりの方いませんか」って、小屋の中の人に聞いてみればいいじゃないですか、とマキ子さんはいう。気の小さいぼくにはそんなことできない。「いいよ」と小さな声でいう。シュラフから抜け出して片付け始めると、頭の辺りにヘッドランプはころがってあった。マキ子さんに小さな声で「あった」といった。

 この日の夕方、壁に防寒に着ていた雨具の上着を引っ掛けた。この位置をAとする。隣のBに後から来た人が、よく似た色の雨具を引っ掛けた。気をつけないと間違えられるな、とその時ぼくは思った。翌朝、雨具を片付けようと思ったら、Aの所に雨具がない、Bには引っかかっている。案の定間違ったなと思って、Bからその雨具を取り、「ぼくの雨具と間違えた人いませんか」と周囲に声をかけるが、返事がない。よく似てるからこれでいいやと思って、ザックにしまおうと思ってよく見るとLATERRAの文字、それはぼくの雨具なのであった。でもぼくは、Aの所に引っ掛けておいたはずなのに・・・・・・。


                        (平成19年8月15日 山の遠足連絡帳 第176号 掲載)